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大阪地方裁判所 平成4年(ワ)11039号 判決

甲事件原告

金裕娜

ほか三名

乙事件原告

金明宣

ほか四名

甲乙事件被告

株式会社松原運送店

ほか三名

主文

一  甲事件原告ら、乙事件原告らの甲乙事件被告らに対する各請求をいずれも棄却する。

二  甲事件の訴訟費用は甲事件原告らの負担とし、乙事件の訴訟費用は乙事件原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  甲事件

1  甲乙事件被告ら(以下、単に「被告ら」という。)は連帯して甲事件原告梁仁順(以下、単に「原告梁仁順」という。)に対し、金一三四七万八二〇四円及び内金一二二七万八二〇四円につき平成二年一二月一二日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは連帯して甲事件原告金裕娜(以下、単に「原告金裕娜」という。)、同金裕奈(以下、単に「原告金裕奈」という。)、同金志彦(以下、単に「原告金志彦」という。)らに対し、各金八九八万五四六九円及び各内金八一八万五四六九円につき右同日からいずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件

1  被告らは連帯して、乙事件原告金基禮(以下、単に「原告金基禮」という。)、同金民錫(以下、単に「原告金民錫」という。)に対し、各金八六五万八五八三円及び各内金七九〇万八五八三円につき右同日からいずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは連帯して、乙事件原告金京宣(以下、単に「原告金京宣」という。)、同金明宣(以下、単に「原告金明宣」という。)、同金尚美(以下、単に「原告金尚美」という。)に対し、各金五七七万二三八八円及び各内金五二七万二三八八円につき右同日からいずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、甲乙事件被告梁成厚(以下、単に「被告梁」という。)が甲乙事件被告山中(以下、単に「被告山中」という。)の保有する軽四輪貨物自動車(以下「梁車」という。)に金光厚(以下「亡光厚」という。)、金斗珍(以下「亡斗珍」という。)外一名を同乗させて運転中、道路左側の縁石に接触して転倒したところへ、甲乙事件被告株式会社松原運送店(以下、単に「被告松原運送店」という。)が保有し、甲乙事件被告生田(以下、単に「被告生田」という。)が運転する普通貨物自動車(以下「生田車」という。)が衝突し、亡光厚、亡斗珍が死亡した事故について、亡光厚、亡斗珍の各妻子が、被告山中、同松原運送店に対して自賠法三条に基づき、被告梁、同生田に対して民法七〇九条に基づきそれぞれ損害賠償を請求したものである。

一  争いのない事実等

1  交通事故の発生

日時 平成二年一二月一二日午後八時一五分ころ

場所 奈良県山辺郡山添村大字遅瀬五五〇番地の一先路上

態様 被告梁が梁車に亡光厚、亡斗珍らを同乗させて運転中、道路左側の縁石に接触して転倒したところへ、被告生田が運転する生田車が衝突し、亡光厚、亡斗珍が死亡した。

2  責任

被告山中は自賠法三条に基づき、被告梁は民法七〇九条に基づきそれぞれ本件事故に関して生じた損害を賠償する責任がある(被告松原運送店が自賠法三条に基づき、被告生田が民法七〇九条に基づきそれぞれ本件事故に関して生じた損害を賠償する責任があることは、甲乙事件原告らと被告山中、同梁との間で争いがない。)。

3  損害の填補

甲事件原告らは、自倍責保険から二六六一万七三〇〇円の支払を受け、乙事件原告らは、自倍責保険から二二四二万七七〇〇円の支払を受けた(以上につき、甲乙事件当事者間に争いがない。)。

4  搭乗者傷害保険金の支払

被告山中が梁車について千代田火災海上保険株式会社との間で締結していた自動車保険契約に基づき、甲事件原告らに対して合計五〇〇万円の、乙事件原告らに対して合計五〇〇万円のそれぞれ搭乗者傷害保険金が支払われた(丙二、三、弁論の全趣旨)。

5  相続関係

(一) 甲事件関係

原告梁仁順は亡光厚の妻であり、原告金裕娜、同金裕奈、同金志彦は亡光厚の子であつて、亡光厚の権利義務を原告梁仁順が三分の一、原告金裕娜、同金裕奈、同金志彦がそれぞれ九分の二の割合で相続した(甲一の24、30、二の1、2、三の1、2、四の1、2、弁論の全趣旨)。

(二) 乙事件関係

原告金基禮は亡斗珍の妻であり、原告金京宣、同金明宣、同金尚美、同金民錫は亡斗珍の子であつて、亡斗珍の権利義務を原告金基禮、同金民錫がそれぞれ四分の一、原告金京宣、同金明宣、同金尚美がそれぞれ六分の一の割合で相続した(甲一の24、31、五の1、2、六の1、2、七の1、2、八の1、2、弁論の全趣旨)。

二  争点

1  被告生田の民法七〇九条に基づく損害賠償責任の有無及び被告松原運送店の自賠法三条但書に基づく免責の可否(甲乙事件原告らは、被告生田が五月橋パーキングエリア流出入路付近の本線道路を進行するに当たり、制限速度毎時六〇キロメートルのところを時速約八〇キロメートルの速度で安全を十分確認することなく左側へ車線変更したため、前方で転倒して停止していた梁車の発見が遅れて本件事故を発生させた過失があるとして被告生田、同松原運送店にそれぞれ損害賠償責任があると主張する。これに対して、被告生田、同松原運送店は、亡光厚、亡斗珍、被告梁、車均の四名が本件事故直前に飲酒し、相当酩酊した状態であることを互いに熟知しているにもかかわらず、亡光厚、亡斗珍が自ら梁車に同乗したものであるうえ、制限速度毎時四〇キロメートルの五月橋パーキングエリア流出入路を時速八〇キロメートルの暴走状態のまま本線に突入し、折から本線第一車線を走行中の車両と衝突ないし衝突寸前の状態になり、このため道路左側縁石に梁車前部を衝突させ、この勢いで第一車線上に横転させたもので、梁車に乗車していた亡光厚、亡斗珍は、被告生田、同松原運送店との関係では、単なる好意同乗者ではなく、梁車の共同運行供用者であつたと主張するとともに、本件事故当時、本線上の第一車線を走行していた大型トラツクが梁車の暴走行為に驚き、梁車を避けようとして突然右に急ハンドルを切り、第二車線を走行中であつた生田車の直前に進出してきたため、被告生田は大型トラツクに追突するのを避けようと、左に急ハンドルを切つて第一車線に進路変更した直後、、進路前方二〇メートルの地点に白い物体を発見し、急ブレーキをかけたが、回避する間もなく衝突したもので、被告生田の右運転行為は、重大な危難を避けるための自己防衛本能に基づく行為であつて、本件事故発生について被告生田に過失はなく、また、生田車には構造上の欠陥又は機能の障害もなかつたとして、被告松原運送店は自賠法三条但書により免責されると主張する。)

2  損害額(甲乙事件ともに、逸失利益、慰謝料、葬儀費、弁護士費用)(甲乙事件原告らは、法の下の平等の原則から、亡光厚、亡斗珍の日本在留資格にかかわらず、日本人と同様に補償すべきであるとして、日本で働いていた際の年収額に基づく逸失利益と、慰謝料額を主張する。これに対して、被告らは、亡光厚、亡斗珍が観光目的で日本に入国し、本件事故当時は、滞在期間が経過した不法残留者であつたうえ、本件事故の翌日に韓国へ帰国する予定であつたから、亡光厚、亡斗珍の逸失利益は、韓国での一般的な労働者の賃金水準に基づいて算定すべきであり、また、慰謝料額の算定に当たつては、右事情のほか、梁車の任意保険会社から、搭乗者傷害保険金として、亡光厚、亡斗珍の相続人である甲乙事件原告らに各五〇万円が支払われていることを考慮すべきであると主張する。)

3  過失相殺(被告生田、同松原運送店の予備的主張)

4  好意同乗減額(被告山中、同梁は、亡光厚、亡斗珍が被告梁の酒気帯び運転を十分認識しながら、梁車に同乗していたとして、甲乙事件原告らの全損害から相当な割合で減額べきであると主張する。これに対して、甲乙事件原告らは、亡光厚、亡斗珍の勤務先における地位は被告梁よりも低いので、被告梁に対して飲酒運転を中止するよう助言する立場になく、また、被告梁に対して同乗させるよう頼んだこともないことから、好意同乗の形態は極めて消極的であり、しかも、被告梁の飲酒が運転に影響を与えたものではないから、好意同乗減額を認めるとしても、慰謝料についてだけ考慮すべきであり、全損害について減額を認めるべきではないと主張する。)

第三争点に対する判断

一  証拠(甲一の1ないし12、16ないし41、一一、一二、被告生田、同梁各本人)によれば、以下の事実が認められる。

1  本件事故に至る経緯

亡光厚、亡斗珍の両名は、観光目的(出入国管理及び難民認定法二条の二、別表第一の三の「短期滞在」)で平成二年三月五日に日本に入国し、三重県上野市でリース、工事業を営む被告山中の下で建設作業員として働いていた。そして、亡光厚、亡斗珍の両名は、本件事故の翌日である平成二年一二月一三日午後の飛行機で韓国に帰国することになつていた。本件事故当日、亡光厚、亡斗珍は、同僚の被告梁、車均とともに同市内の建設現場で働いた後、同日午後五時ころ、勤務先の事務所に戻つた。その後、右四名は、奈良県添上郡月ケ瀬村にある従業員寮に自動車で帰る途中、亡光厚、亡斗珍の送別会をすることになり、同日午後五時三〇分ころ、右四名が上野市内の焼肉店に立ち寄つた。そして、同日午後七時ころまでの間、右四名で、ビールと日本酒を飲んだが、このうち、被告梁の飲酒量は、ビールをコツプ(〇・一八リツトル入り)二杯位と、日本酒をコツプ二杯位であつた。右飲食を終えて店を出る際、右四名のうちで、車均と亡光厚の二名が、他の二名に比べてかなり酔つていた。そして、右四名は、同日午後七時三〇分ころ、右従業員寮に帰つた。その後、車均が銭湯に行こうと言い出し、他の三名は、余り気が進まなかつたものの、結局、右四名で上野市内の銭湯に行くことになり、同日午後八時ころ、被告梁が梁車を運転し、助手席に車均、後部座席に亡光厚、亡斗珍がそれぞれ同乗して右従業員寮を出発した。

2  本件事故状況等

(一) 本件事故現場は、別紙図面のとおり、東西に伸びる片側二車線(両側四車線)の国道二五号線(通称名阪国道。以下「本線道路」という。)の東行車線上である。本件事故現場付近は東方向へ一〇〇分の一の下り勾配となつており、本線道路の最高速度は、時速六〇キロメートルである。また、本件事故現場のすぐ西側には、別紙図面の「五月橋パーキングエリア流出入路」(以下「流出入路」という。)があり、流出入路の制限速度は、時速四〇キロメートルである。本件事故当時、被告梁は、梁車を運転し、別紙図面の流出入路を本線道路に合流するため、時速約八〇キロメートルの速度で東進していた。その際、被告梁は、梁車の運転席側のバツクミラーで本線道路上を東進してくる車両の有無を確認したところ、その車両がかなり後方(西側)を東進していることを確認した。そこで、被告梁は、本線道路上の車両よりも先に本線に合流できると判断し、その後は、右後方の本線道路上の様子を確認することなく、右にハンドルを切りながら本線道路との合流地点付近まで達したところで、梁車のすぐ右隣(本線道路の第一車線)に車両が接近しているのに気付いた。このため、被告梁は、梁車のハンドルを左に切るとともに、急ブレーキをかけたが、別紙図面の「ガードレール擦過」付近のガードレールに梁車の左前部が衝突し、そのはずみで、梁車は、本線道路上の別紙図面〈ア〉地点に運転席を下にして横転した。右横転直後、梁車の車内では、車均が被告梁に対して「どないしたんや」と言い、後部座席にいた亡光厚、亡斗珍も韓国語でわめいていた。そして、梁車は、右横転後間もなく、本線道路上を走行してきた生田車に衝突された。警察官が、本件事故後の平成二年一二月一三日午前零時五分に被告梁の身体のアルコール含有量を検査したところ、呼気一リツトル中に〇・一ミリグラムのアルコール分が検出された。また、車均、亡光厚、亡斗珍については、右三名が収容された上野総合市民病院から廃血の提供を受けた警察が鑑定をした結果、血液一ミリリツトルにつき、車均が二ミリグラム、死亡した者のうち一名が二・九ミリグラム、他の一名が〇・五ミリグラムであつた。

(二) 被告生田は、本件事故当時、生田車(最大積載量四・二五トン)に約三トンの荷物を積載して、本件事故現場の手前約一三一メートルの別紙図面〈1〉地点(本線道路上の第二車線)を時速約八〇キロメートルの速度で走行していた。その際、生田車の左前方約三〇・四メートルの別紙図面〈A〉地点(本線道路上の第一車線)を時速約六〇キロメートルの速度で走行していた大型トラツクが、合図をすることなく急に生田車の走行する第二車線に進路変更してきた。このため、被告生田は、大型トラツクに追突するのを避けるため、左にハンドルを切るとともに、ブレーキを踏み、別紙図面〈1〉地点から別紙図面〈2〉地点(第一車線)まで約九五メートル進行したところで、進路前方約三六メートルの別紙図面〈ア〉地点(第一車線上)に白い物体があるのを認めた(その際、大型トラツクは、生田車の進路右前方約七・三メートルの別紙図面〈B〉地点を走行していた)。このため、被告生田は、急ブレーキをかけたが間に合わず、梁車と衝突し、梁車を押すような形で進行して、別紙図面〈3〉地点から約八一・五メートル先の別紙図面〈4〉地点で停止し、梁車は、別紙図面〈イ〉地点に停止した。

二  被告生田の民法七〇九条に基づく損害賠償責任の有無及び被告松原運送店の自賠法三条但書に基づく免責の可否について

前記一2で認定したところによれば、本件事故は、被告生田が制限速度を時速約二〇キロメートル越えた速度で生田車を運転中、梁車が横転しているのを発見して急に生田車の進路上へ進路変更してきた制限速度程度の速度で走行する大型トラツクに追突しそうになり、大型トラツクへの追突を避けようと左側へ車線変更した直後に、横転している梁車と衝突する事故を起こしたもので、本件事故当時、被告生田が、制限速度を遵守して生田車を運転していれば、制限速度程度の速度で走行する大型トラツクが急に生田車の前に車線変更してきても、大型トラツクに追突するおそれは少ないことから、生田車を車線変更する必要もなかつたと解されるうえ、制限速度を遵守していれば、梁車との衝突による衝撃の程度も低くなり、本件事故のような重大な結果が発生しなかつた可能性もあると解されることからすると、本件事故発生について、被告生田に民法七〇九条の過失があることは明らかである。そうすると、被告松原運送店の自賠法三条但書に基づく免責の主張も理由がない。

三  甲事件に関する損害

1  逸失利益 一三一〇万四一一八円(請求四二四五万一九一二円)

亡光厚は、昭和三〇年五月五日生まれ(本件事故当時三五歳)で、前記一1(本件事故に至る経緯)で認定したとおり、観光目的で平成二年三月五日、亡斗珍と一緒に日本に入国し、被告山中の下で建設作業員として働き、平成二年九月から同年一一月までの三カ月間に、一カ月平均二六万八七三三円(円未満切り捨て、以下同じ。)の給与を得ていた(甲一の11、一一)が、本件事故の翌日午後の飛行機で韓国に帰国することになつていた。亡光厚は、今回の来日直前まで韓国で妻子と同居し、農業に従事していた(甲一の30)。韓国における平成二年の全産業平均賃金水準は月額六四万二三〇九ウオンであり、平成六年三月七日付日本経済新聞に記載された円とウオンとの通貨換算率は一〇〇円に対して七七四・三ウオンである(乙一、二)。

右に認定した亡光厚の韓国における仕事内容、来日後の滞在資格、滞在期間、就労状況に、亡光厚が本件事故の翌日に韓国に帰国することになつていたことからすると、亡光厚の逸失利益については、本件事故当日から六七歳までの三二年間(中間利息の控除として三二年間の新ホフマン係数一八・八〇六を適用)にわたり、前記韓国における全産業平均賃金水準月額六四万二三〇九ウオンに前記通貨換算率を適用した月額八万二九五三円(年収九九万五四三六円)の収入を基礎として算定すべきである。また、右に認定した本件事故当時における亡光厚の年齢、身上関係、生活状況からすると、亡光厚の逸失利益の算定に関しては、その生活費として三〇パーセントを控除すべきである。

そうすると、本件事故と相当因果関係のある亡光厚の逸失利益は、一三一〇万四一一八円(前記年収九九万五四三六円に前記新ホフマン係数と生活費控除率を適用)となる。

なお、甲乙事件原告らは、法の下の平等の原則から、亡光厚の日本在留資格にかかわらず、日本人と同様に補償すべきであると主張するが、逸失利益の算定において基礎となる収入額については、被害者の将来における収入額、就労状況、就労の継続性等を重要な要素とする事実認定に関する事項であつて、被害者が外国人か否かに関する問題ではないのであるから、右原告らの主張は採用できない。

2  慰謝料 一〇〇〇万円(請求二〇〇〇万円)

甲乙事件原告らは、慰謝料についても、前記三1(逸失利益)における主張と同様に、法の下の平等の原則から日本人と同様の慰謝料額を認めるべきであると主張するが、本件における慰謝料額は、本件訴訟の審理において現れた一切の事情を考慮して、裁判所の裁量で決定すべき事項であり、前記のとおり認定した亡光厚の身上関係、日本と韓国における就労状況、前記韓国における全産業平均賃金水準、円とウオンとの通貨換算率に、前記第二の一4で判示したとおり、甲事件原告らが合計五〇〇万円の塔乗者傷害保険金の支払を受けていること、その他一切の事情を考慮すれば、慰謝料としては、一〇〇〇万円が相当である。

3  葬儀費 五〇万円(請求一〇〇万円)

前記三1(逸失利益)で認定した亡光厚の社会的地位、身上関係、その他一切の事情を考慮すれば、葬儀費としては、五〇万円が相当である。

四  乙事件に関する損害

1  逸失利益 九八二万七六〇一円(請求三三〇六万二〇三二円)

亡斗珍は、昭和一九年九月六日生まれ(本件事故当時四六歳)で、前記一1(本件事故に至る経緯)で認定したとおり、観光目的で平成二年三月五日、亡光厚と一緒に日本に入国し、被告山中の下で建設作業員として働き、平成二年九月から同年一一月までの三カ月間に、一カ月平均二七万九〇六六円の給与を得ていた(甲一の11、一二)が、本件事故の翌日午後の飛行機で韓国に帰国することになつていた。亡斗珍は、今回の来日直前まで韓国で妻子と同居し、農業に従事していた(甲一の31)。

右に認定した亡斗珍の韓国における仕事内容、来日後の滞在資格、滞在期間、就労状況に、亡斗珍が本件事故の翌日に韓国に帰国することになつていたことからすると、亡斗珍の逸失利益については、本件事故当日から六七歳までの二一年間(中間利息の控除として二一年間の新ホフマン係数一四・一〇三八を適用)にわたり、前記韓国における全産業平均賃金水準月額六四万二三〇九ウオンに前記通貨換算率を適用した月額八万二九五三円(年収九九万五四三六円)の収入を基礎として算定すべきである。また、右に認定した本件事故当時における亡斗珍の年齢、身上関係、生活状況からすると、亡斗珍の逸失利益の算定に関しては、その生活費として三〇パーセントを控除すべきである。

そうすると、本件事故と相当因果関係のある亡斗珍の逸失利益は九八二万七六〇一円(前記年収九九万五四三六円に前記新ホフマン係数と生活費控除率を適用)となる。

なお、法の下の平等の原則に基づく甲乙事件原告らの主張については、前記三1で判示したところにより採用できない。

2  慰謝料 一〇〇〇万円(請求二〇〇〇万円)

前記のとおり認定した亡斗珍の身上関係、日本と韓国における就労状況、前記韓国における全産業平均賃金水準、円とウオンとの通貨換算率、前記三2(慰謝料)における判示内容に、前記第二の一4で判示したとおり、乙事件原告らが合計五〇〇万円の塔乗者傷害保険金の支払を受けていること、その他一切の事情を考慮すれば、慰謝料としては、一〇〇〇万円が相当である。

3  葬儀費 五〇万円(請求一〇〇万円)

前記四1(逸失利益)で認定した亡斗珍の社会的地位、身上関係、その他一切の事情を考慮すれば、葬儀費としては、五〇万円が相当である。

五  ところで、甲事件原告らが本件事故に関し、自倍責保険から二六六一万七三〇〇円の支払を受けたことは当事者間に争いがないところ、甲事件関係の損害額は、二三六〇万四一一八円(前記三1ないし3の損害合計額)であるから、甲事件関係の損害は全額が填補されているといわなければならない。また、乙事件原告らが本件事故に関し、自倍責保険から二二四二万七七〇〇円の支払を受けたことは当事者間に争いがないところ、乙事件関係の損害額は、二〇三二万七六〇一円(前記四1ないし3の損害合計額)であるから、乙事件関係の損害も全額が填補されているといわなければならない。

したがつて、甲乙事件原告ら主張の弁護士費用(甲事件につき合計三六〇万円、乙事件につき合計三〇〇万円)を被告らに負担させるのは相当でない。

六  以上によれば、甲乙事件原告らの被告らに対する各請求は、その余の点につき判断するまでもなくいずれも理由がない。

(裁判官 安原清蔵)

別紙図面

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